音はすれども姿は見えず
少し前の話になるが、気になっていた大枝が落下した。大径木のコナラが枯れて1年数カ月。折れた場所は頭上はるか上、12mくらいか。写真を撮った前の日の夜、誰もいないし、何もしていないのに、葉擦れのシャラシャラ鳴る音が室内にも響いた。「大枝落下!」と思い、外をみてみたが、あったのは小さな枝のみ。夜中で見落としていた。しかし翌日、外に出てみるとご覧のとおり。ツバキの枝を大きく折り曲げて大枝がいた。枝にはキノコが付いている。
腐朽菌でも活躍の場はそれぞれ
このコナラが枯れたとき、どうもこうもできない状態であったのも確かだが、気を付けていれば、人に危害が加わることはないと想定し、そのまま立ち枯れさせることとした。だから、日々、空を見上げ、まだかまだかと大枝が落ちるのを待っていた。この枝が落ちれば、通行上の不安はだいぶ少なくなる。面白い話がある。深澤遊著「枯木ワンダーランド」によれば、心材腐朽菌といって、樹洞(じゅどう)をつくる腐朽菌は、樹木が死ぬと生きていられないらしい。つまり、木が死んでしまったら、樹洞はそれ以上大きくなることはなく、心材は分解されない。普通の腐朽菌は生きている辺材部にいて、深澤氏によれば、”ストレスのない環境”だそうだ。木が死ぬと一気にストレスを受けて、心材腐朽菌の領域を囲み、彼らは行き場を失うということらしい。心材は抗菌物質が豊富で、腐朽菌も分解するのは手こずるようだ。今回、枯枝を作る主役は、生きている木の辺材部にいた腐朽菌とも種類の違う、辺材の枯死部を餌とする腐朽菌がになっている。
腐朽菌は樹木を分解し土をつくる
木が枯れることは、森にとってはそう悪いことではない。とくに今回のような大径木が枯れると、ギャップといって樹冠に隙間ができて、日光が林床に差し込み、成長を抑えられていた木々や、眠っていた種などが芽を出し、その部分が大きく成長する。また、枯木が菌類によって分解されると、最終的には土となり、植物が吸収しやすい栄養になるわけで、再び樹木の葉や枝となって森を作っていくのだ。
枯枝の扱い方は、森を育てるうえでの大きなテーマだ。